ドンキーコングバナンザ レビュー
概要 筆者の進行度:100%クリア ネタバレ:ストーリーの核心や終盤のボスに関するネタバレをしない 各評価の見方 ★☆☆☆☆: クソゲーと言わざるを得ない ★★☆☆☆: 正直良くはないと思う ★★★☆☆: 標準的 ★★★★☆: 良策 ★★★★★: 名作 ★★★★★+: ゲーム史に残る はじめに 『スーパーマリオ64』以降、任天堂は各ハードで3D箱庭アクションゲームを登場させてきた。これらのゲームには、初めてゲームに触れる子供から熟練のゲーマーまで誰もが楽しめることのみならず、そのハードにおける「新たなゲーム体験」を象徴する革新性を知らしめることが求められている。 『ドンキーコング バナンザ』は、この二つを見事に、期待以上のレベルで満たしてきた名作といって間違いない。 筆者はスーパーファミコン時代から『スーパードンキーコング』シリーズのファンであるが、『スーパーマリオ オデッセイ』や『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』等Switch1時代の名作3Dをプレーしておらず、『スーパーマリオ ギャラクシー2』以来久々にプレーする任天堂3Dゲームに高い期待を寄せてきた。一方、新しくなってスペックも向上したSwitch2のスペックをどう活かしてくるのだろうか?とプレー前は考えていた。プレーした体験と感想を書いていくこととする。 ゲームシステム 評価: ★★★★★+ 「破壊による創造」という革新的な体験 本作はほぼすべての地形を破壊できる。一言で言えばそれだけなのだが、それによって生み出される体験は膨大だ。壁や地面を破壊して道を作り、地面を掘って洞窟を見つけ、掘った岩を振り回して敵を攻撃し、それに乗ってスケボーのように移動する。これは破壊による創造と言えるシステムで、本作の革新性の根幹を成している。 破壊することで宝箱や金塊がじゃらじゃら出てくるのも破壊の楽しさを際立たせており、「最初のフィールドでただ周囲を破壊して回るだけで楽しい」というのは、かつて『スーパーマリオ64』で感じた「キノコ城の外をただ走り回るだけで楽しい」という感覚を思い出させるものであった。もちろん、破壊の仕方を工夫して解く仕掛けなど、ただ破壊して直進するだけの単調なゲームにしない工夫も凝らされている。目玉要素であるバナンザ変身は、より爽快に破壊を楽しむことができるだけでなく、それぞれの固有の能力を用いて解く仕掛けによりゲームの奥深さにもつながっている。 満点にとどまらない魅力のあるシステムである。 ストーリー 評価: ★★★☆☆ 薄味だが、ファンサービスはたっぷり バナナ大好きDKと不思議な歌声をもつ少女ポリーンは、願いを叶えるために敵と戦いながら星の中心を目指す…というあらすじだ。ドンキーコングシリーズの中では壮大だが、王道的であり近年の大作ゲームからすると若干薄味ともいえるだろう。クライマックスこそ盛り上がるものの、あえて厳しく言えばクライマックスが盛り上がるのは当然のことである。 しかし、アクションを楽しむ時間の割合を増やすためにあえてライトなストーリーに作られているという側面もあるだろう。プレイヤーには星の中心に向かうという大目的が与えられるが、後戻りを禁止されたり行動を制限されたりということは少なく、気兼ねなく探索を進められる設計になっている。ロード画面でのキャラクター紹介や回復時のDKとポリーンの会話(独白)によってキャラクターの深堀りがされているほか、ストーリーを深く楽しみたいプレイヤーは自分でそれらの要素を見つけられる設計になっている。シリーズ過去作の意匠や小ネタが多数登場し、過去作との繋がりを発見することもできる。 総じて、重厚なストーリーを楽しみたい人向けの作品ではないが、必要なものは備えているといえるだろう。 ゲームバランス 評価: ★★★★★+ 任天堂の開発力の真髄を見る 本作に最も感動したのがこのゲームバランスの調整だ。まず、ゲーム開始直後からバナンザ変身以外のほとんどすべてのアクションを行うことができ、非常に行動の制約が少ない。壁に掴まれる時間制限はないし、ライフが0になってもお金をわずかに失ってチェックポイントに戻されるだけだ。退屈な単純作業を強いられることもほとんどない。本作にはスキル制が導入されているが、スキルポイントも多少ストーリーを進めればペナルティなしで振り直すことができる。地形を破壊しすぎて進めなくなってしまっても、元に戻すことができる。バナンザ変身の時間にこそ制限はあるが、変身中にある程度地形を破壊して金塊を集めれば解除後すぐにもう一回変身することができる。これらの結果、ゲームにおけるリソース管理の不快さはほぼなく、爽快感に大きく貢献している。破壊しても無限に再生するNPCや、自分の家や船を破壊されても陽気なままのNPCなど、精神的な面で破壊を躊躇わないための工夫も随所で行われている。 収集要素は多数あるが、集めないと次のマップに進めないといったネガティブな要素でなく、最大ライフの増加やアクションの強化ができるスキルを習得したり、移動速度やダメージ軽減などの効果のある着せ替えを購入したりといったポジティブな収集要素として再デザインされている。これにより、探索をほとんどせずに一直線に進むこともできるし、ボスに勝てなくなったら戻ってDKを強化することもできる。歩き回ったり破壊したりするだけでも楽しいのに、探索がそのままDKの強化に繋がっていることでますます探索を楽しむことができる。各マップで100%クリアを目指すにあたっても、隠されている要素の総数はミニマップから見ることができるし、宝箱やショップから地図を入手することで隠されている収集アイテムの場所が分かるようになっている。探索ゲームによくある、どこにあるか見つけることすらできず同じところを何度も探索してイライラする、といったことが少ないことも好印象だ。 難易度調整は非常によくできており、プレイヤーが自分で攻略法に気付くことができるようになっている。操作方法は説明されるが、“座学的"にはなっておらず、動かして遊んで理解するようになっている。イベントや戦闘をスキップして次に進む、いわゆるシーケンスブレイクがほとんど禁止されていないのも特筆すべき点だ。ネタバレにならないように曖昧にしておくが、例えば一部のボスは様々な方法でダメージを与えることができるし、中ボスと戦わずに次に進める場所もある。バナンザ変身による高い移動力を活用すれば、ステージの大部分を無視して進めるマップすらもある。 これだけの多様な遊び方を認めた上で、簡単すぎず難しすぎもせず面白いゲームにするためには、レベルデザインに途方もない労力をかける必要があったはずだ。感服する他ない。 グラフィック 評価: ★★★★★ 美しいだけでなく、質量のある空間 本作のグラフィックは、Switch2による新時代の到来を予感させる出来だった。地下世界とは思えない広がりを見せる様々なテーマのある世界を表現するために十分なグラフィックが用意されている。しかし、筆者がグラフィックに★★★★★をつけたのは、単に美しい風景が広がっているからだけではない。 本作のグラフィックで印象的なのは、そのリアルな質感だ。土、石、木、雪、金属といった様々な材質でできた世界は、破壊された状態もリアルに再現されている。高いところから土に着地すればクレーターができるし、地面を掘り進めれば色が変わる。これらは間違いなく破壊のリアリティと楽しさに貢献しているだろうし、この質感を維持しながらほとんどどこでも破壊できるという難題を両立している点にもゲーム機の進化を感じられる。地味ながら、地形の破壊状況がミニマップに反映されることも驚くべき進化だ。 なお、画面酔いするという人は設定からカメラの振動を弱やオフにすることで画面酔いを軽減できるかもしれない。 サウンド 評価: ★★★★★+ 過去作と現代の見事な融合と、凄まじい質感へのこだわり ドンキーコングは、ゲーム性だけでなくその音楽においても有名だ。特にスーパーファミコンの『スーパードンキーコング』シリーズはゲーム史に残る名曲揃いであり、ゲーム本編をプレーしたことがなくても音楽は聞いたことがあるという人も多いだろう。本作は、ドンキーコングシリーズの世界観をしっかりと踏襲しつつ、本作のゲーム性に合った新たな味付けとなっている。ステージのBGMはアンビエント調の落ち着いた雰囲気の曲が主であり、そのマップの雰囲気をバナンザ変身中は軽快で陽気なBGMが流れるというメリハリが印象深い。また、過去作の人気曲のアレンジも多数登場する。『スマッシュブラザーズ』シリーズに登場するアレンジには原曲の味わいを損なっていると感じた楽曲もあったが、今作のアレンジにはまったくない。ネタバレになるのでどの楽曲が再録されているかは記載しないが、過去作のファンは是非プレーして実際のシーンで聴いてほしい。 本作におけるサウンドのこだわりは音楽だけではない。地形を破壊した際の音にも相当なこだわりを持って作られたことが制作者のインタビューで語られている。詳細は制作者のインタビュー記事を参照してほしい。また、Switch2の売りの一つである振動にも相当なこだわりを持って作られたことがうかがえる。例えば、DKが歩く際には一歩ずつわずかに振動があり、DKの重量を感じさせてくる。この振動も、歩いている場所の素材によってわずかに振動の仕方が異なり、土では振動が小さく、金属では大きくなる。地形の破片を持って投げる動作でも、破片の素材や投げて衝突した場所までの距離などによって振動の仕方が異なっているようだ。このグラフィック・サウンド・振動の組み合わせにより、砂は柔らかくサラサラと崩れていきそうな感覚、石は固くずっしりとした感覚を覚えるほどの没入感が生み出されている。 ボリューム 評価:★★★★☆ やりこみ要素には課題もあるものの、圧倒的自由度で何度も楽しめる 本作は複数のマップから構成されており、メインのマップは「階層」として繋がっている。マップ数は価格に対して十分であり、すでに述べたように1マップごとに膨大な時間をかけてデザインされたであろう緻密な設計が垣間見える。各マップにはメインの収集要素である「バナモンド」に加えて「化石」が埋まっており、様々な場所で掘り出して収集し、装備品や装飾品と交換することができる。これらをコンプリートするにはまず置いてある場所を発見し、取得する必要がある。本作はどこでも破壊できるシステムの影響で収集品が完全に見えない場所にあることも多いが、DKのハンドスラップがソナーになっており近くの地形に隠されているアイテムが分かるほか、地図を入手することでも隠されている収集品の場所が分かるようになっており、探索の面では楽しさとやりがいを両立可能にしている。また、見つけた収集品を取得することが難しいものも一部あり、作業量だけではないやりこみの難易度もきちんと確保されている。 これらの量はフルプライスのゲームとして十分なものではあるが、ほとんどの収集品は発見する難易度が高くないこともあり、一部の難しいもの以外はそこまで時間をかけずにコンプリートすることができる。また、対戦要素はなく、ゲーム内に青天井のやり込み要素はあまり用意されていないため、100%クリア後は目標に乏しい印象を受ける。 しかしながら、本作にはほとんどのシーケンスブレイクを許容する圧倒的自由度があり、タイムアタックをしたり、バナモンドの他の取り方を考えたり、バナンザ変身をできるだけ使わないで進んだりとプレイヤーが自由に新しい遊び方を考えることができる。オープニング画面にある「DKアーティスト」で自由に造形を行ったり、マップの破壊できるものをすべて破壊したりと破壊(と創造)をするだけでも楽しい。これらの要素により数字以上のボリュームがあることから★★★★☆とした。 減点要素 評価: わずか 本作はイライラするような要素をできるだけ排除したゲームデザインとなっており、減点となるような要素は少ない。細かい点をあえて挙げるとすれば、 ・階層間の移動は決まった場所を経由しなければならないなど、ファストトラベル関連が若干不便である。 ・触れるとダメージを受ける地形を破壊したときわずかに壊し残しがあると、実質不可視のダメージ判定となってしまうことがある。 ・チャレンジステージで、最後の1体を倒した瞬間に次のマップに移動してしまうため、最後の1体がレアアイテムを落としても拾うことができない。 ...